なぜ読書感想文を書くのか ③言葉にならない気持ちと向き合うーエルマーのぼうけん
前回の記事はこちら ー読書感想文 ②つらいのはなぜ?読書感想文のプロセス
最後に、私の読書感想文の経験についてお話しします。(とても変わった子どもだったので、皆さんの参考になるかは分かりませんが・・・。)
本の虫
私は、幼児の頃から本の虫で、どんな遊びよりも本が好きでした。親につれられて誰かの家に行くと、その家の本棚の前に座り込んで何時間でも本を読み続けるような子どもでした。読み終わった後もしばらくは本の内容が頭から離れず、本の世界に入り浸っているような有様でしたので、現実世界を生きている時間よりも本の世界にいる時間の方が長かったように思います。
本が好きなのに加え、周りの大人から求められている理想的な文を書くことに全く興味がありませんでした。
先生に褒められる立派な感想文を書くということは、先生が感想文の典型として予めイメージされているものに自分の作文を合わせていく作業のように思えて、なんだかつまらなく感じられたのです。
どちらかというと読む人を驚かせる変わった感想文を書きたいと考えていたので、自分の書きたい気持ちに任せひたすら自由に書いていました。
・ライトノベルを題材にする。
・著者あての手紙形式で書く。
・一部を韻文で書く。
・創作文を混ぜる。
上記は中高生の頃の私が実際に書いたものです。
やりたい放題ですが、一度も先生に怒られるようなことはありませんでした。
どんなに奇抜な内容でも、本を楽しんでいることには違いないですので、宿題の意図したところは達成していたということでしょう。
エルマーのぼうけん
そんな私ですが、少し残念で、今でも記憶に残っている感想文があります。
小学校2年生の頃だと思うのですが、「エルマーのぼうけん」を題材に感想文を書きました。
「エルマーのぼうけん」は、主人公の少年エルマーが、どうぶつ島にとらわれたりゅうの子どもを助けるために冒険の旅に出る物語です。とても人気のある幼年童話ですので、読んだことのある方も多いのではないでしょうか。
物語の序盤、旅に出る前に、エルマー少年が旅支度を整えるシーンがあります。船旅が何日になるのか、食糧はどの程度必要になるのか、持ち歩ける荷物の限度はどれほどなのかと考えながら、荷物をそろえ、詰め込みます。最終的に準備した品物の種類と数量を列記して読者に教えてくれるのが、とてもリアルで、まるで自分も一緒に旅支度をしているようで、とても大好きな描写でした。実際、旅行において荷物の支度はとても重要な要素ですよね。もしかしたら旅行そのものよりも長い期間を費やして、出発前の準備をしているかもしれません。
当時の私はこの描写に対する好きな気持ちを感想文にしたかったのですが、上手く言葉にすることができませんでした。なんとか表そうと頑張っていたのですが、大人に「この部分はいらない」と言われ、最終的に感想文から削除されてしまいました。今でも覚えている、残念な思い出です。
大人になった今なら、伝えることができます。「エルマーのぼうけん」は、ファンタジーでありながらとてもリアルなんです。冒険に出かけた後にも、食べたもののごみをどう処理しようか、と悩むシーンが出てきます。ごみをそのままにしておいては、自分の足跡を残すようなもの。追手に見つかってしまいます。廃棄物処理にまで言及するような現実感のあるファンタジーなんて、なかなか出会えるものではありません。このリアル感が、ファンタジーと読者を協力につないでくれる。子どもだった私は大いに感情移入して物語に夢中になりました。
気持ちを自覚し、言葉にする力
自分の気持ちをなんとか表現したくて試行錯誤した経験は、たとえすぐには形にならなくても、物事を感じる力、気持ちを言葉にする力につながるのだと思います。
この力は、作文だけではなく、長い人生のいろいろなところで、たとえどんな職業に就いたとしても、子どもたちを支えてくれるものだと私は考えています。
皆さんにも、うまく言葉にならなかった自分の気持ちと向き合った時間がきっとおありだと思います。
宿題としてせっかく出会ったのですから、読書感想文をそんな経験をする場所として楽しんでみてはどうでしょうか。